追憶のエデン
その瞬間、振り下ろされる筈だったナイフはアリシアさんの手から弾き飛ばされ、カランカランと音を立てて床へと落とされた。
そして腕の拘束は解け、代わりにふわりと優しく甘い薔薇の香りと温もりに包まれた。



「未羽。」



「……ル、キ、フェル?」


顔を上げると優しく微笑むルキフェルがいた。
そしてさっきまでの緊張感が一気に抜けると涙が次から次へと零れ落ちていく。


「未羽、こっち向いて?……ハッ…ぅん…」


慰める様な優しいキスが降る。
しかし甘く細められていた瞳は唇が離れると同時に冷たく鋭く光り、アリシアさん達の方へと向けられる。



「忠告した筈だ。イヴに近づくなと。少しでも傷つけたら、殺すってね。
もちろん……覚悟は出来てるんでしょ?」


そうルキフェルは言うと、掌をアリシアさんの方へと向けた。



「――姉様っ!!


ぐわぁぁあああぁあッ!!!」



アリシアさんを庇う様にとっさにグレンが立ちはだかる。


そしてアリシアさんに向かう筈だった無数の黒い羽が刃の様に鋭くグレンに襲い掛かる。


「ルキフェル!やめてぇーーっ!!」

グレンが傷つけられ苦しみ、断末魔を上げる姿が見てられなくて、あんなに酷い事をされても友達だと言ってくれてたグレンを助けたくてルキフェルに止める様に縋った。
その言葉にピクリと反応したルキフェルは攻撃するのを止める。


「どうして止めるの?」


「だってこのままじゃグレンが死んじゃう!」



「……いいんだ、未羽。…はぁ…姉様がそれで助かるなら、俺は…死ぬ事すら、嬉しいんだ……。
姉、っ様……はぁ…ぁ…幸せに、幸せにな…って?ぉ、れの…手で…んぐっ…俺の手でじゃ…ないのは、悔しいけ…ど…」




未羽、ご め ん ね――。



「いやぁあぁぁああぁぁっ!グレン!グレン!目を開けてーー!!」
< 57 / 114 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop