追憶のエデン
ピクリとも動かなくなったグレンを見て、駆け出そうとするけど、ルキフェルに腕を捕まれてそれは叶わなかった。
それどころかまだ冷やかで張り詰めた空気を纏ったルキフェルはアリシアさんに冷淡な瞳を向ける。


「未羽を汚した弟は、後でじっくりと殺してあげようと思ったのに、あっけなく死んじゃった。


ねぇ、アリシア……君は何を勘違いしてるの？
僕はイヴの姿を君に求めただけで、最初から君自体には何の興味もないんだ。
それに君に言ったじゃない。『君にはもう用はないよ』って。」


「…そ、ん…な……嘘…っ。」


「嘘じゃないよ。
最初から勝手に勘違いしてたのは君だけだ。


てか、君のした事は国際問題だ。覚悟してね？」


そう言うとルキフェルはまたアリシアさんに向かって手を伸ばした。


するとアリシアさんは覚悟した様に目を閉じ、居住まいを正すと、ルキフェルに綺麗な笑みを浮かべる。



「愛してます！愛してますわ…ルキフェル様。
この命、貴方に奪って貰えるというのなら、喜んで死を受け入れますわ！！」



女のあたしですら見惚れてしまう程、アリシアさんは凛として、本当に綺麗だと思った。
そしてここまで誰かを愛せるアリシアさんやグレンが羨ましく思った。
そんな風にアリシアさんを見つめていると、


「未羽は、見ないで？」


と言うとルキフェルは自分の大きく黒い羽であたしを隠すように覆う。


そしてあたしがアリシアさんを見る事が出来なくなった事を確認すると冷たい声が頭上で聞こえた。



「僕自身が君の願いを聞いてあげるとでも？
最後まで勘違いしないで欲しいな。


君には、下等なこの魔物達に蹂躙され、肉を食い散らかされ、臓腑を引きずり出され死んでいくのがお似合いだ。



――やれ。」


無数の羽音が聞こえ、キーキーとした鳴き声と獣の息遣い、匂いがし、一斉にアリシアさんに向かっていく音が聞こえた。


そして、彼女の絶望感に満ちた何度もルキフェルを呼ぶ悲痛な声が聞こえ、断末魔が部屋に響きわたる。
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