追憶のエデン
俺の今の日常は笑いが出る程、気が触れる寸前の様な生活だった。


だから腹いせにここに送り込まれる、家庭教師という名目を背負った女は、全て弄んで精気を吸い尽くしてやった。
時には、身の回りの世話をしてくれる、メイドにも同じ事を繰り返した。
だから当然、ここ最近は男の使用人しか近寄らなくなった為、こうして家庭教師の女しか食えなくなった。


それでもあいつが此処に俺を閉じ込め、女を執拗に送り込んでくるのは、俺が次期当主の教育カリキュラムにと出された帝王学やら語学やらなんやらを全て習得し終えている為、何も学ぶ必要がない俺への嫌がらせか何かだろう。



「何がしたいんだか……」



「そこに、どなたかいらっしゃるの?」


壁にもたれボーっと天井を眺めていると、初めて聞く女の声が聞こえた。
少し甘い声音を持った、身体がゾクリとした快感を走らせる様な女の声だった。


「なぁに?君も、俺に何か用~?」


ドア越しに女に話しかける。


「別に用って訳では……ただ、少し噂を聞きましたの。」


「へぇ~。噂を聞いて、君も俺にむちゃくちゃに抱かれてみたくなったの?あははっ!」



「……馬鹿にしないで下さいませ?わたくしは気高きバトラー家の長女アリシアですわよ?貴方如きがわたくしに触れる事など、許されませんわ。失礼します。」



そう言って女がこのドア前から立ち去って行く音が聞こえた。


「あの高飛車なお嬢様が、あいつの娘ね~」


初めて彼女と話した時は、あのプライドをぶっ潰してやりたいと思った。



でも、



「グレン、今日からこの部屋を出て私の補佐に就きなさい。


そして――おいで、アリシア。
私の愛する娘、アリシアの……君の姉の護衛として、献身的に仕えなさい。」


「お会い出来て光栄です、姉様。」


跪いて手の甲にキスを落としてやる。


今でも覚えてる。あの時の姉様の顔。嫌悪と侮蔑を含んだ瞳で、それでも俺を真っ直ぐに見つめる瞳は、俺と同じ紅い瞳だった。
< 62 / 114 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop