追憶のエデン
するりと左脚の膝から腿へと滑る掌。黒い闇を携えた瞳。思考を絡み取るかのようなキス。



(ねぇ……なんでそんなに怒ってるの?イヴの魂だから?だから許せないの?)



頭上で縫い止められた両腕に込められた力。
荒く上がるルキフェルの呼吸と体温。
熱くうねる舌。無理矢理開かされた脚と秘部に宛がわれる指。



とめどなく溢れだしたあたしの涙が頬を伝い、ポロポロと落ちていく。
泣き声を只管噛み殺しながら。



するとルキフェルはピタリと動きを止め、腕の拘束を緩める。



「……何で…何で…何でなんだよ……」



「……君を、こんな風に抱きたくなんてないのに……。
悲しませたいわけじゃない……苦しめたいわけじゃない……また君の笑顔が見たいだけなんだ…。
何で上手くいかないんだよ……。やっとまた、君に廻り合えたのに……。
……それに…あんなに大切な二人で交わした約束……何で君は忘れてしまったの?
……僕は…ずっと、ずっと…その約束だけが全てだったのに……今も変わらず、可笑しくなる位、君だけを愛してるのに……」



俯き、零される言葉は痛い程の悲しみが宿っていた。
その言葉一つ一つが心へと、魂へと突き刺さり、痛みを全身へと感染させていく。
掛ける言葉なんて見つからない。声なんて出せない。


そして俯いたままで表情は見えなかったけど、ルキフェルの頬を一筋の滴が伝って落ちた様に見えた。


(……ルキフェル…。)


更に心臓を握りつぶされていく感覚。
あたしはどんな約束を彼としていたのだろうか?
こんなにも悲しみと痛みに苦しむルキフェルを見るのは、これが本当に初めてだっただろうか?


(イヴ……貴女なら、分かるのかな?)



――ドクンッ



一瞬、鼓動が大きく脈打つのを感じた。
きっと今、イヴが答えたのだろう。


二人にしか分からない秘密。
その事が酷く心を重くさせ、真っ黒な霧が広がっていく。



どうしてかな?


ルキフェルと貴女の約束を壊してしまいたいだなんて――。
< 70 / 114 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop