追憶のエデン
その瞳に見つめられると胸が苦しくなってくるのは何故なんだろうか。
何だか無性に心が締め付けられて無意識に顔を逸らしてしまった。


「イヴ。俺を見ろ。顔を逸らすな。」


ヤハウェの指があたしの顎を捕らえ、反対の手で顔を固定された。
そして彼の唇があたしのそれを塞ごうと距離が更に縮まる。



――その時



「相変わらずまだ僕の花嫁殿に手を出そうとするんだね。その何でも自分の所有物だと思う癖、何とかなんないの?」



「ちっ……。覗きとは随分、変態な性癖を持った奴等ばかりだな。
アダムは見逃してやってたが、ルキフェル。お前に許可した覚えはねぇよ。」


張り詰めた空気が駆け抜け、一気に緊張感でこの空間を染め上げた。


しかし、そんなものは一瞬の出来事。


「ほーら、またすぐに会えたでしょ?」


振り返ると無邪気な笑顔をあたしに向けてクスクスと笑うルキフェルの姿がそこにあった。


「ルキフェル!?こんな所に、あたしを連れて来たのはやっぱり貴方の仕業だったんですね!?てか、この場にいるのはルキフェルだけじゃないって、アダムって人もいるってどういう事なんですか?」


そう話の流れから察するに、此処にいるのはこの2人だけじゃない筈……。


「言葉の意味、そのままだが?だりぃ……。」


さも面倒臭そうに玉座に座っていたヤハウェが答える。



「もぉ~。折角の再会なのにそんな無粋な事を聞かないで欲しかったなぁ。
あ、それも僕に嫉妬させる作戦?」


「…っっ!!!」


頭がくらくらしそうな程の甘さと、拗ねた色を含ませた声が吐息を混ぜ、耳元に注ぎ込まれた。


気付いた時にはもう遅かった。
今度はルキフェルの腕の中に捕らわれれば、ぎゅっと少し強めに抱きしめられていた。
人間じゃないから瞬間移動みたいなものも使えるのかしらと妙に場にそぐわない間抜けな感心を抱いてしまう程、それは自然で、一瞬の事だった。ただそんな感想とは裏腹なあたしの強く打ってしまう鼓動と、上昇した体温はきっとルキフェルには隠しきれていないと思う。
それを証拠に更に強く抱きしめられた。



「てめぇっ!何しやがる!」


そんな中、一連のやり取りを見ていたヤハウェの怒鳴り声が空気を揺らした時、こちらに近付いてくる足音が聞こえた。
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