追憶のエデン
「でもアレは僕じゃない。」


「今となってはだけど、例えアレが本当のルキフェルじゃなくても、ルキフェルの姿であたし以外の女の人に触れると思うだけで、何でか心が重たくなって苦しくなる。
それとね、あの時アリシアさんに殺されそうになった時、ルキフェルしかあたしの頭の中にはいなかったの。あんなに長い時間を共有した渉さんじゃなくて、ルキフェルだった。
言いそびれちゃったけど、


助けてくれてありがとう。」



拘束していた腕はやんわり解かれ、今度は暖かく優しいルキフェルの腕に包み込まれる。



「貴方を信じられなくてごめんなさい。逃げててごめんなさい。」


ルキフェルの背に腕を回し、そっと力を優しく込め、そしてルキフェルにありったけの今の気持ちを伝える。



「ねぇ、ルキフェルの事をもっと知りたいの。
貴方が好きな事も、嫌いな事も、何を感じ、何を思うかも、全部。
貴方の笑顔も、涙も、その理由も、全部。
そしてあたしのこの気持ちが誰のもので、何なのかも、知りたいの。それにルキフェルにも多分知って欲しいんだと思うの。
……だから、
あたしにルキフェルを教えて?」


涙に滲みそうになる視界を、心からの笑顔でルキフェルに伝える。
すると一瞬ルキフェルは大きく瞳を見開き、その後、すごく綺麗な笑顔を、幸せそうに、嬉しそうに咲かせ、甘いく優しい声であたしの耳元に口を寄せた。



「いいよ。未羽に僕を全部教えてあげる。
だから僕にも未羽を全部教えて?
そして


僕を君でいっぱいにして?」


まるで二人だけの秘密の約束を交わすようだった。
そしてお互いの視線が自然と交われば、優しく想いを伝える様なキスが降りてきた。


名残惜しげに離れては、また重なり、ルキフェルの「僕もごめんね。」という声を最後に、深いキスへと変わっていった。



欠けた月の下。
補う様に約束をしたのは、貴方とアタシ――。
< 81 / 114 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop