追憶のエデン
二人で朝食を済ませた後は、ルキフェルに手を引かれ書庫へ行き、あたしにも読めそうなものをとルキフェルが選んでくれた本をいくつか持ち出し、一緒に執務室へと向かった。


するとオロバスさんが部屋へとやってきて今日分の書類の束をルキフェルに渡し、何か二人で話終えると紅茶の準備をして部屋から退室していった。
そんなやり取りを目の端でこっそり追いながら、また本へと視線を集中させる。



今までと変わらない光景。
ソファーで本を読み耽るあたしと、書類全てに目を通し、サインをするルキフェル。
しかし一見変わってない様に見えて、全く違う空気感が二人の間に流れ、ただ同じ部屋にいるという過ごし方から、時間を共有するという過ごし方に変わった。


「どう?その本。」


「こういうの好きかも。
淡々と文章は流れていくのに、そこに見える背景の美しさとか、主人公の気持ちを映してるみたいで。」


「気に入ってくれてよかった。」


「ふふっ。ありがとう。」



時々、どちらかから始まる短い会話。
彼は見てないと思っていただけで、あたしの好みの本は随分知っていたようだった。
あの膨大な本の海から手渡されたこの本は、吃驚するくらいあたし好みのお話で、そこに彼の優しさが見えた気がして、トクンと甘く脈打つのを感じた。



――コンコン



あれから2時間程たった頃、オロバスさんが部屋に入ってきた。


「ルキフェル様。会議のお時間で御座います。
諸侯の皆様方はもう揃われたとのご連絡が入りましたので、会議室へと御移動願います。」


「分かった。未羽?」


「うーんと…いってらっしゃい?」


ルキフェルの求めている言葉がこれであってるのか分からず、首をこてんと横にすると、ルキフェルもこてんとあたしと同じ様に首を倒す。


「違うよ?」


「違うの?」


と二人で首を横に倒したまま見つめ合う。



「何をやってらっしゃるんですか……
ルキフェル様。貴方わざとふざけてますね。」


見兼ねたオロバスさんが間に入るとルキフェルは首を元に戻しクスクスと笑いだした。


「バレちゃってたんだ?クスッ。
未羽。この会議は君も一緒に来るんだよ。
だから、ほら――手、繋ご?」


疑問を頭に浮かべながら、その手を取れば、オロバスさんの方から小さな溜息が聞こえた気がした。
でもそれには触れず、肩を並べルキフェルと歩き出した。
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