追憶のエデン
階段を何回か上り、まだ一度も足を踏み入れた事のない階へと辿りつくと、その会議室は更にその階の奥まった所にあった。
金縁の紅い扉に金のドアノブ。そこはどこの部屋のドアとも違い、重厚感が桁違いだった。


オロバスさんがドアを開け、ルキフェルと一緒に部屋へと入る。
すると部屋の中は真っ暗な闇に包まれており、窓すらもない部屋だった。


(こんな真っ暗で、本当に諸侯の方々が揃ってらっしゃるのかな?)


こんな疑問が頭に浮かぶのも無理はなく、あたし達の気配以外全く感じられず、また誰かがこの部屋へと入ってくる気配もなかった。


「未羽、こっちに一緒に立って。」


そうルキフェルに言われれば、手を引かれ、あたしの本当に直ぐ隣にルキフェルの気配を感じることが出来た。



ルキフェルは一瞬で空気を張り詰めさせ、聞いたこともない言葉で呪文の様な言葉を口にする。
すると淡く青白い光があたし達の足元から放たれ、魔法陣が浮かび上がれば、光は更に強さが増していった。


徐々にこの部屋の全貌が分かる位の光を放てば、唐草模様の黒い縁で飾られた数メートルはあろう大きな縦長の鏡が全部で5枚、左右と前方にかけ壁に埋め込まれていた。
そしてその鏡全てが青白く光り、真っ黒な炎が映し出され、炎の中からそれぞれの鏡に、狐、蛇、蠅、蠍、熊をモチーフとしたなんとも不気味な鈍色のオブジェが立体的に映し出された。


(これって一体……?)



「ほ~ぉ。この娘が…ねぇ。」


「……美味しそう…食べて、みたいな…。」


「ベルゼビュートくぅん、それはぁ、どっちの意味でなのかなぁ?くふっ」


「こんな頭の悪そうな女の何処にそんな価値が?忌々しい…。」


「面倒くせぇ…。おい、そこの女。てめぇ、いい度胸してんなぁ?」


オブジェが次々に好き勝手に話し始めれば、舐め回す様な視線と高圧的な視線が一気にあたしに注がれたのが分かった。
好奇と狂気。そのどちらも入り混じった感情が精神を抉るかの様に攻めてくる。ガタガタと小刻みに恐怖で膝が笑うのを止められず、俯きスカートの裾をぎゅっと握ってこの状況を耐えるしかなかった。
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