追憶のエデン
絶対零度の威圧的な声に誰も反論など出来る筈もなく、声を揃え「御意。」という返事が諸侯達から返ってきた。
そして頭上から「未羽も、分かった?」と声を掛けられば、あたしもこんな過ちを二度と繰り返さない様にと心に刻み、ルキフェルを真っ直ぐ見据え、しっかりとした声で「はい。」とルキフェルに答えた。


真っ直ぐにこちらをみていたルキフェルの瞳が僅かに見開き、口元を引き締めるのがわかると、少しだけ柔らかくなった雰囲気と声でルキフェルは閉会を告げた。



閉会と共に再び広がった暗闇。
肩に回された見知った温もりと共に会議室の扉の前へと立てば、肩にあった温かい手は頭を軽く優しくポンポンっと撫でて行き、さっきまで重たかった気分が少し軽くなった様な気がした。













「直ぐにお茶のご用意を致します。」とお辞儀をしたオロバスさんと別れ、ルキフェルと二人でまた執務室へと戻る。
静かな廊下は二人分の足音を響かせ、窓からたっぷりと降り注ぐ温かな陽射が照らしていた。



ほんの少しだけ先を行く背中を見つめる。
ピンと伸びた背筋、綺麗なラインのシルエット、月の光の様な髪、長い手足。きっともっと早く歩けるだろうに、その歩幅はさり気無くあたしの歩幅に合わせられていて、一緒に歩く時に彼の背中が遠くなってしまったことなんてなかった。
あたしはいったいどれだけ彼に本当は甘やかされていたんだろうかと思い返す。そしてどんな感情を持って彼はあたしを甘やかしてきていたんだろうと思う。あたしの口から出る言葉は今まで拒絶の言葉ばっかりだったから……。


(さっきの会議だって牽制もあるかもしれないけど、きっとそれだけじゃないんだろうな。)


あのルキフェルの考えている事なんて想像もつかないけど、自惚れかもしれないけどきっと彼なりの優しさなんだと思った。
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