追憶のエデン
(だとしたら、あたしは――。)



「未羽っ。」



――コツン



「ッ!!」


「眉間、そんな風にしてたら怖い顔になっちゃうよ?
せっかく可愛い顔なのに。クスクスっ」


甘く優しい声。顔に急に集まった熱。
眉間を人差し指でコツンとされ、その残った感触が更に熱を持った。
でも簡単に素直になんてなれないあたしはそれを誤魔化す様に、慌てて眉間のしわを指の腹で伸ばしながら「可愛くないもん。からかわないで。」と素っ気なく、少し拗ねた様な声を含ませてルキフェルに抗議する。
そんな様子に更にくすくすと笑いながら「可愛いよ。」と言うルキフェルにまた心臓が跳ねた。



ルキフェルの無邪気な笑顔を見ながらふと抱いた疑問。


「ねぇ、ルキフェル。
あたしが『花嫁』って冗談でもなんでもなかったんだね。」


「冗談だと思ってたなんて随分と酷いね。
冗談なんかじゃないよ。本気。」


ゆっくり閉ざされ、再び真っ直ぐに向けられた力強いサファイアブルーの双眼。


「ねぇ、未羽。
本当はさっさと正式に君が花嫁だって発表したいのに、それをまだしてないのは何故だかわかる?


僕は君自身が本当に心から僕を愛し、求めてくれて初めて君を世界中に僕の花嫁だって発表したかったんだ。」



――ドクンッ



引き込まれた腕の中でふわりと香る薔薇の香りが仄かに混ざったルキフェルの香り。
頭の後ろに置かれた大きな掌と、顔の直ぐ横にある見えなくなった端正な顔に意識が集中する。



「……未羽が僕と同じ所まで堕ちて来てくれるまで、もう少し待ってあげる。
ただ…待つことに僕はうんざりする程、飽きちゃってるんだ。


だから――早く僕を愛して?」



内緒話をするかのように、耳に直接届けられた蕩ける程甘く蜂蜜みたいな愛の言葉。
くらくらする頭と、体温の上昇で少し水膜を張った瞳は、ルキフェルに捕らえられ、甘く痺れて溶かしていく様なキスを一つ、紅く色付いた唇に優しく落とされた。
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