追憶のエデン
「二人共、イヴの所有権を主張し合ってるけど、実際、彼女の恋人はこの俺。それは今も昔もこれからも変わらない。
――あぁ、夫婦ってカタチには今後変わる事にはなるけど。
だよな、未羽?」


「!!!!!っ…渉さんっ!?」


声のした方向を見てみれば、部屋の奥へと続く、金の細工が施された入口の物陰から、見知った恋人の姿が現れた。


(どうして?どういう事?)


「おい、アダム。戯言は所詮戯言だ。だからお前の戯言は何処まで行っても戯言に過ぎねぇ。
覗きまでは黙認してやってたが、今は目障りでしかない。ここから消えろ。」


渉さんの登場と放たれた言葉に、訳がわからなかった。
ただ各々の主張が飛び交う中、渉さんがアダムだったという事実まで突きつけられたあたしは何だか滑稽で、一人その場に取り残されてしまっている様に思えるだけ。


(アダムが渉さん?
そして彼はあたしがイヴだと最初から思ってた。
あれ?じゃぁ、あたしと付き合った理由って?
…ちょっと待って。)


――これじゃぁ、まるで……


辿り着いた憶測と現実に、渉の愛の言葉も全て自分自身に向けられていたモノではない様な気がした。そして未羽という存在など最初から誰にも求められてなどいないという現実に虚しさを抱え、渉への純粋な恋心は陰りをみせた。


そんな黒い感情に支配された心は出口を求めて暴れ始めれば、未羽は震えて今にも泣きそうな声で静かに彼等に告げた。


「イヴ、イヴって皆なんなのよ。あたしはイヴなんかじゃない。貴方達なんかのモノになるなんて御免だわ。
皆自分勝手な事を言って。
それと……


渉さん、貴方も同罪よ。嘘吐き……。」


「未羽っ!?「来ないで!例え今、どんな言葉を聞いたって、あたしは渉さんを信じられない!!だから、どんな言葉もいらない!それに、渉さんが求めてるのはあたしなんかじゃないじゃない!」


そう、どんな言葉もただただ『未羽』という存在を壊していく凶器になるだけ。だったら何も聞きたくない。
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