追憶のエデン
Episode10
忘却――
なんて残酷な言葉なんだろう
それでもあの時感じた気持ちも言葉も嘘じゃないって信じてくれますか?
全て、あの時は確かにアナタの隣が永遠だと、そう、思ってた――。
*
闇の世界で咲いた光は、炎となり森を駆け抜ける。
そして苦しみ、悲しみ、憎しみ、恐れ、痛みを持った獣達の慟哭が、木々を焼き尽くす音の中に響き渡り、まるで意志を持ったかのように烈火の炎が森の中を駆け抜けた
遡る事数時間前、誰がこんな事態を予想していただろうか?
*
「この間少しだけ聞こえてきた曲、あれって誰の曲なの?」
自主休憩だと言って、ピアノ部屋にいたあたしの許を訪ねてきたルキフェルはゆったりと座ったソファーの肘掛に頬杖をつき、ピアノの椅子に腰かけるあたしに少し上目使い気味に尋ねてきた。
「この間?……あぁ、あの曲の事か。
あれはあたしが適当に思いついたまま弾いてたもので、誰の曲でもないよ。」
「そうなんだ?だからなのか。すっごく未羽らしい旋律を奏でてるなぁって思ってたから。
僕、あの曲好きだなぁ。まっすぐで、軽やかで透明感のある音の旋律、ねぇ、もう一回聴かせて?」
そう言って少し気恥ずかしくなる様な世辞の言葉を並べた後、甘えた様な目つきでリクエストされれば、ドキン心臓が強く音を立て、顔が熱くなるのを感じた。
ただ本当に適当にその時思いついたまま弾いていた為、全く同じ曲が弾けるかと言われると怪しい…でもルキフェルのリクエストに応えてあげたい…さてどうしたらいいものかと思っていた時、ポーンとピアノの高音が鳴り響いた。ハッとしてルキフェルを見ればクスクスと笑って「あ、こっち見てくれた。」と穏やかに目に弧を描きながら喜ぶルキフェルが視界に入る。
それに一つ溜息を落とし、「全く同じには弾けないからね。」と正直にルキフェルに伝えると、またピアノに向き合い、そっと両手を鍵盤の上へと乗せた。