追憶のエデン
「ありがとう。」と彼女に告げ、紅茶に口を付ける。いつもなら喜んでこの時間を楽しんでいるが今日はあんなことがあった手前、どうしてもルキフェルやオロバスの事が気がかりで仕方がなかった。


一口、二口、紅茶に口を付けては、窓の外を見る。
シールドの外での出来事らしいので当然どうなっているかなんて見えるわけないのだけど、外は普段通りのルキフェルが創り出した綺麗な景色のままで、それが余計あたしの心を重く不安にさせていた。



「イヴ様、ルキフェル様やオロバス様は、大変お強い方々です。だから大丈夫。」


あたしの不安を察した彼女はあたしの側へとやってくると腰を落とし、視線の位置をあたしと合わせると、力強い眼差しでしっかりとした言葉で伝えた。


「それと、随分と名乗るのが遅くなって申し訳ございませんが、此度イヴ様の専属の護衛を兼任致しました『ユノ』と申します。
イヴ様、精神誠意一生涯貴女様に尽くし、この命に代えても貴女様をお守り致します。」


真っ直ぐに向けられる視線と言葉に彼女の強い意志を感じた。どこにでもありふれた平凡な女子大生として生きていたあたしにとってなんだか気恥ずかしく、恐れ多いと思った。
でもあたしが辛い時、彼女は抱締めてくれた。そしていつでもあたしを気遣ってくれていた。だから彼女の言葉や優しさは、それが例え仕事だとしてもいつもすごく嬉しかった。だからこそ――。


「ありがとう、ユノさん。でもあたしの為に命は掛けないで欲しいかな。」


「しかしッ!!」


「ユノさん。あたしは所詮、平凡で一般的な家庭で育ってきた人間界のただの人間です。でもこの世界に何故か連れて来られて、辛い事もいっぱいあった。それでも貴女はいつでも微笑み、あたしの事を気遣ってくれた。それがいつもどんなに嬉しくて、感謝してもしきれなかったか…。だから仕事だとしても、貴女をあたしのせいで失いたくないの。だからもし、この先あたしに何かあったとしても、貴女は生きて?ね?お願い。」


「――ッ、イヴ様……」
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