追憶のエデン
綺麗な顔を歪ませながら、どこか腑に落ちない声色だった。彼女の気持ちを思えばあたしの言った事はとても侮辱にも値するかもしれない。でもこればかりは自分も曲げられなかった。 


また一口、彼女の淹れてくれた紅茶を飲む。
口の中に広がる少しの苦みがいつもより苦く感じた。




*




紅茶は飲み干したが、やっぱりケーキは余り食べる気になれなくて、二口程食べて後は残してしまった。
時計を見て、どれだけの時間が経ったのかを考えては、外を見る。それを繰り返しても、まだルキフェルとオロバスさんが戻って来ることはなかった。


(ルキフェル……。)


何をしていても落ち着かず、窓の外のバルコニーへと出てみる。外へ出たとしても何かが見えるわけでもないけど、部屋の中にいるよりかは、ルキフェルを感じられる気がして、バルコニーの縁で頬杖をつきながら広がる真っ暗な闇の先を眺めていた。



『――?』



「え!?」


ふわりと風が頬を撫でて行った時に何かが聞こえた気がして、振り返るが後ろには誰も居なかった。



『――ね?』



『――は…ね?』



耳を澄ませば徐々に聞こえてくる声。


「ユノさん、何か言った?」


不思議に思い中に居る彼女に声を掛けてみるが、『いえ、何も…。』と不思議そうに答えたので気のせいだと思い、一度空へと視線を戻すけど、声が聞こえる事もなかったので、部屋へと続く窓のドアノブに手を掛けたその時。



『未羽?』




「…ぁ、渉…さ…ん…?」




『未羽…やっと声が届いた。助けに来たよ。だから俺んとこ戻っといで――。』


頭に直接届いたかの様に鮮明に聞こえたのは、あんなにも愛した恋人の声。
嬉しい筈なのに、何故だろう…ルキフェルの事を考えてしまう。


(ルキフェル……)



『未羽……来るんだ。さぁ…おいで?』



キーンと高く耳鳴りがした。その瞬間何が起きたのかは分からない。でも、あたしの意思で動いてるわけじゃないのに、勝手に動いていく身体に抗う事も出来なかった。
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