オヤスミナサイ~愛と死を見つめて~
彼はハンドルの上に顎を載せて考える。

「どっちにも似てないんじゃないかな」
 
若いお母さんに手を引かれて歩く子どもが、横断歩道を渡っている。
 
3歳くらいの子かな。
 
私がそれくらいの年齢になるまで、両親が生きていてくれたら、記憶に残っていたのだろうけれど。
 
両親がいた、ちいさい頃のことは、何も覚えていない。
 
気がついたら、伯父さん伯母さんが両親だった。
 
ハタチになったら、本当の親じゃないということを話す、という親もよく聞くけれど、私の場合はちいさな頃から、真実を聞かされてきた。
 
梨聖ちゃんのお父さんとお母さんは、お星様になったんだよって。
 
だから私は、幼いながらも、泣きたい時は、よくベランダに立って涙を流していた。
 
星になった両親が、見てくれているような気がして。
 
そのまま、ベランダで泣き寝入りしちゃったこともあったっけ。
 
次の日、やっぱり風邪ひいて熱出して、伯母さんが親身になって看護してくれた。
 
すりおろしたりんご、たまごを溶いたおかゆ、カロリーもあって冷却効果もあるからって、バニラアイスも食べさせてくれた。
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