オヤスミナサイ~愛と死を見つめて~
「よし。じゃあ行くか」

もう帰るのか……淋しいな。

渡海さんがサイドブレーキを倒した。

車は静かに発進。

私の気持ちは、まだこの飛行場に残っているというのに。

いよいよ西日にも翳りが見えはじめてきた。

夜が侵食してきている時間。

「良かったなー空港。なんか心にさわやかな風が吹いたよ」

「うん。清涼剤でしたね」

渡海さんが言うと、クサイセリフもさむく感じられない。

ピュアな人なんだな。

だから、彼の口からこぼれる言葉は、まっすぐ私の心へ届いて花が咲くんだ。

いいな、渡海さん。素敵だな。

彼女――いるんだろうな。こんなに素敵なんだもん。

私はふぅーと長いため息をついた。

「何? 疲れた?」
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