好きになんか、なってやらない
1章 恋は忍耐
「れーなーちゃん!」
きた……。
頭の後ろから呼ばれる、鳥肌が立つような呼び方。
何も気づいてない。
誰も私のことなんて呼んでいない。
確かに聞こえた、自分の名前には何も気づいていないふりをして、私はそのままパソコンに置かれた指を動かし続けた。
「え、シカト?」
「……」
さっきより、明らかに近くなった声。
あー嫌だ。
「玲奈」
「……勝手に人を、名前で呼び捨てにしないでください」
これ以上無視することのほうが、身の危険を感じ、
振り返ることなく、その声の主へと返事をした。
「やっぱ聞こえてたんじゃん。わざと?」
「用件はなんですか?」
相手の質問には答えない。
冷たく言い放った言葉に、彼はそのままの調子で口を開いた。
「今日の夜は空い……」
「空いてません」
そして、分かり切っていた質問に、最後まで言わせることなく返事をした。
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