好きになんか、なってやらない
「大丈夫か?!」
「……陽平…」
最悪だ。
どうして奴が、こんなところにいるんだろう……。
もう二度と会うつもりはなかったのに、当たり前のように私の名前を呼んで目の前に現れる男。
一瞬にして、体温がひんやりと冷めていく。
「なんで……」
「香織さんって人から電話をもらったんだ。
玲奈が泥酔状態だから、迎えに来てほしいって」
「は?」
まったくもって意味が分からない。
香織が陽平に電話をした意図も。
私が泥酔状態だという知らせも……。
「香織?」
すぐに香織へと向き直って、どういうことかと説明してもらった。
だけど当の本人は、ケロッとした表情で、
「玲奈が自分から動かないから、協力してあげただけだよ」
と、ウィンク付きで、スッと私の手のひらに何かを渡してきた。
そこには、前に陽平に渡された、携帯番号が書かれている紙切れがあって……
「ごめんね。勝手なことして。
だけどこういうとこから、恋は生まれるものだよ」
そして、ポンと私の背中を押した。
おそらく彼女は、私がいつだか落としたであろうこの紙を拾って、勝手に陽平へと電話をかけたのだ。