好きになんか、なってやらない
 
「大丈夫か?!」

「……陽平…」


最悪だ。
どうして奴が、こんなところにいるんだろう……。

もう二度と会うつもりはなかったのに、当たり前のように私の名前を呼んで目の前に現れる男。

一瞬にして、体温がひんやりと冷めていく。


「なんで……」
「香織さんって人から電話をもらったんだ。
 玲奈が泥酔状態だから、迎えに来てほしいって」
「は?」


まったくもって意味が分からない。

香織が陽平に電話をした意図も。
私が泥酔状態だという知らせも……。


「香織?」


すぐに香織へと向き直って、どういうことかと説明してもらった。

だけど当の本人は、ケロッとした表情で、


「玲奈が自分から動かないから、協力してあげただけだよ」


と、ウィンク付きで、スッと私の手のひらに何かを渡してきた。

そこには、前に陽平に渡された、携帯番号が書かれている紙切れがあって……


「ごめんね。勝手なことして。
 だけどこういうとこから、恋は生まれるものだよ」


そして、ポンと私の背中を押した。

おそらく彼女は、私がいつだか落としたであろうこの紙を拾って、勝手に陽平へと電話をかけたのだ。
 
< 102 / 301 >

この作品をシェア

pagetop