好きになんか、なってやらない
 
「ご覧のとおり、私は全然酔ってないから。
 一人で帰れるし、お迎えは必要ないよ」


相変わらず、可愛くない切り替えし。

もしここで、本当に少しでも酔ったふりをすれば、きっと人生は変わる。
だけど相手は、私がこの世で一番、頼りたくない男だ。


「まあ、そんなこと言わずにさ。
 せっかくここまで来たんだから、送ってくよ。車だし」

「余計無理。車とか乗れない」


いくらなんでも、そこまでバカじゃない。

密室で二人きり。
そういった万が一の可能性がある場所には、自ら足を踏み入れない。


「……すげぇガード固いのな」


そんな私の態度に、苦笑交じりの陽平。

昔と変わらない、目尻を下げて笑う微笑み。
かつて大好きだった笑顔。

でも……



「あなたのせいでしょ。
 こんだけ、鉄の女になってるのは」



この裏にある、彼の本性を
私は知ってしまったから……。
 
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