好きになんか、なってやらない
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(跳ね除けろよ)
(そのほうがいいですか?)
(……ダメ。
っつか、させない)
抱きしめられたあの土曜日。
いつもならすぐに跳ね除けるのに、あの時だけはそうしたいという気持ちなんかなくなっていて……。
ドキドキと高鳴る自分の鼓動に
心地よさと落ち着きなさの両方を抱えて、ただ岬さんに抱きしめられていた。
(あーダメだっ)
ふいに岬さんは私の体を離して、肩に手を添えたままガクッとうなだれる。
(これ以上したら、またキスしそう)
(だ、ダメですっ)
(だろ?だから今日は帰る)
岬さんの発言に、慌てて後ずさり、自分の口を覆った。
そんな私に、岬さんは苦笑すると、もう一度玄関に添えてある靴を履きだした。
(じゃあ、また会社でな)
(………はい)
岬さんはこれ以上私に触れることなく、笑顔で手を振るとそのまま部屋を出ていってしまった。
途端に静まり返る自分の部屋。
ドアの向こうからは、遠くなっていく岬さんの足音。
なんだろう、このモヤッとした感じ。
帰ってくれてほっとしているはずなのに、どこか心にぽっかりと穴が開いた気分。
寂しいなんて……
感じているわけない。
***