好きになんか、なってやらない
誰かと待ち合わせでもしてんのかな?
壁にもたれながら、携帯をいじって立ち尽くしている岬さん。
遠く離れた場所にいる私の存在には、まだ気づくことはなかった。
このまま気づかれたくない。
だけどどこかで気づいてほしい。と思う自分がいる気がする。
変なの。私……。
自然とゆっくりになってしまった歩を進めながら、彼に声をかけることなく駅へと向かって行く。
だけどその時、一人の女の子が岬さんに向かって駆けていくのが分かった。
「凌太さん!」
高い声が、私のもとまで聞こえてきた。
その声とともに、岬さんが顔を上げ、彼女の存在に気づく。
「すみません、遅れてっ……」
「いや、大丈夫」
岬さんは、いじっていた携帯をズボンの中にしまうと、真正面から彼女と向き合っていた。
優しく微笑む横顔。
ズキン……
なぜか私の胸に、
鋭い痛みがはしった。