好きになんか、なってやらない
 
「……もしもし」
《玲奈?もう仕事終わった?》
「うん。……何か用?」


かかってきた相手を見て、明らかに落胆してしまっている自分。
だけど私が冷たい態度なのはいつものことだ。
だから向こうも、何も聞いてくることはない。


《今日、夜空いてる?飯でも食いに行かない?》


私をそうやって誘ってくるのは、今一番誘ってほしい相手ではない。


「行くわけないでしょ」
《そう言うと思った。だから少しでいいから、電話で話そうよ》


可愛げのない返事にも、笑って切り返す彼は……めげずに私の心にズカズカと入り込んでくる男で……


「そんなことしたって、私は陽平とは……」
《だーめ。まだその返事はしないで》


決定的な言葉さえも、言わせてくれない。
とても卑怯な男だ。

けど……


《こうやって、何回か電話をしてたら、直接話してみたいなって思う日も来るかもだろ》
「……だといいね」


完全に拒絶して、切ることが出来ない私は、きっともっと卑怯な女。



陽平と話していると
さっきまでのモヤモヤが頭の中から薄くなっていく気がする。

けど……

なんでだろう。
胸の痛みはいつまでも消えない。
 
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