好きになんか、なってやらない
「……お疲れ様ですー」
「おい、こら待て」
待っているのは自分ではないと言わんばかりに、笑顔で彼の前を通り過ぎようとしたけど、グイと引っ張られる腕。
ああ、やっぱり岬さんが待っていたのは私なのか……。
「私、行けないって言ったはずですけど」
「でも仕事が終わったあとは暇なんだろ?」
「暇じゃないです。家に帰ってからの娯楽があるんで」
「なんだよ、その娯楽って」
チョコを食べることです。
なんて言ったところで、彼に通用するものではない。
口ごもって、とりあえず歩みを進めることにした。
「なんですか、用って」
「とくにねぇよ。ただ飲みに付き合ってもらおうと思っただけ」
「べつにそれって、私じゃなくてもいいじゃないですか。他に誘う相手はたくさんいるでしょ?」
「それは昔の話だろ」
「今だってっ……」
再び思い出された、昨日の光景。
つい感情的になったことにハッとして、再び口を閉ざした。
「何?今だってなんだよ」
「……誘う相手も、誘ってくれる相手もたくさんいるじゃないですか。
昨日だって、女の子と会ってたんですよね?今日はその子に振られたから、私を誘ったんですか?」
「お前、見てたの?」
いちいち、本人に伝える気なんてなかった。
言ってしまったら、まるで自分が気にしていると暴露しているようなものだから。
でもなぜか、感情をうまくコントロールできない。