好きになんか、なってやらない
ったく、余計な荷物増えちゃったじゃん……。
帰りのエレベーター、大きく膨らんだバッグを見て、ため息をついた。
中には、岬さんにもらった猫のぬいぐるみが入っている。
そのまま、会社のデスクに置きっぱなしにしておこうかと思ったけど、人の目に触れるところにあると、何かとからかわれそうな気がして、結局持って帰ることにした。
バッグの隙間から、じっと見つめる三白眼。
やっぱり憎たらしい。
私に似ているからとかいって、そんなことを言われて喜ぶ人がいるだろうか……。
これが、可愛らしいクマや、愛くるしいうさぎなら分かる。
けど、ここにあるのは、意地悪そうな目で、じっと睨んでいる黒猫なのだ。
やっぱり人をからかっているとしか思えない。
エレベーターが一階へ着くのと同時に、もう一度深いため息をついて、エントランスへと足を運んだ。
「おつかれ」
「え?」
出入り口の自動ドアが開いた瞬間、かけられる言葉。
どう考えても、自分にかけられたタイミングの言葉であり、もう暗くなっている外で顔を上げた。
「よかった。すれ違いとかになってなくて」
「……陽平…」
信じられない。
そこには、同じく仕事帰りであろうスーツを着た陽平が立っていた。