好きになんか、なってやらない
 
「なんで……こんなところにいるの?」
「この前、オフィスビルの名前教えてくれたじゃん?俺の会社とすぐ近くだって分かったから」
「そういうことじゃなくて……」


オフィス街とも言われる場所にある会社。
確かに、電話で話した時、ついうっかり言ってしまったような気がする。

でもこんなふうに、突然来るなんてルール違反だ。


「待つだけだとダメだと思ったから」


声色を変えて、真剣ともとれる真面目な声。

さっきまで微笑んでいたと思ったのに、揺らぐことのない真っ直ぐな瞳がじっと私を見つめてる。


「玲奈が俺と会いたくなるのを待つまで、電話とかラインだけで済まそうと思ってたけど……
 たぶんそれじゃあ、どんどんあの男に差をつけられちゃうだろ?
 だからもう強行突破しに来た」

「えっ……」


そう言うや否や、グイと手を引っ張る陽平。

突然のことすぎて、踏ん張ることも出来ずグイグイと引っ張られてしまう。


「とりあえず、飲みに行こうよ。ちゃんと話したいから」
「だから私はっ……」
「今日だけ。今日だけでいいから……ちょっとしたプレゼントのつもりでさ」
「え?」


それを言われて、首をかしげた。

どうしてこのタイミングで、陽平にプレゼントをあげないといけないのか……。


今日……

あ、れ……?
もしかして……



「覚えててくれてた?」



気まずそうに微笑むその顔。

今日は多分、陽平の誕生日だ。
 
< 137 / 301 >

この作品をシェア

pagetop