好きになんか、なってやらない
「なんで……こんなところにいるの?」
「この前、オフィスビルの名前教えてくれたじゃん?俺の会社とすぐ近くだって分かったから」
「そういうことじゃなくて……」
オフィス街とも言われる場所にある会社。
確かに、電話で話した時、ついうっかり言ってしまったような気がする。
でもこんなふうに、突然来るなんてルール違反だ。
「待つだけだとダメだと思ったから」
声色を変えて、真剣ともとれる真面目な声。
さっきまで微笑んでいたと思ったのに、揺らぐことのない真っ直ぐな瞳がじっと私を見つめてる。
「玲奈が俺と会いたくなるのを待つまで、電話とかラインだけで済まそうと思ってたけど……
たぶんそれじゃあ、どんどんあの男に差をつけられちゃうだろ?
だからもう強行突破しに来た」
「えっ……」
そう言うや否や、グイと手を引っ張る陽平。
突然のことすぎて、踏ん張ることも出来ずグイグイと引っ張られてしまう。
「とりあえず、飲みに行こうよ。ちゃんと話したいから」
「だから私はっ……」
「今日だけ。今日だけでいいから……ちょっとしたプレゼントのつもりでさ」
「え?」
それを言われて、首をかしげた。
どうしてこのタイミングで、陽平にプレゼントをあげないといけないのか……。
今日……
あ、れ……?
もしかして……
「覚えててくれてた?」
気まずそうに微笑むその顔。
今日は多分、陽平の誕生日だ。