好きになんか、なってやらない
そんな7年も昔に付き合ってた彼氏の誕生日なんて、いちいち覚えてられない。
だけど私にとって陽平は、初めての彼氏であり、一つ一つの記念日やイベントを大事にしていた。
だから陽平の誕生日は、あの時の私にとって、一年で一番大事な一日であって……
「今思い出しただけ。そんなの、ずっと忘れてたんだから」
「でもそれでも分かってくれたんならいいよ」
「……ちょっとだけだよ。一軒だけ付き合ってあげる」
「ありがとう」
たった一回だけ過ごしたあの誕生日。
あの日の幸せな気持ちを思い出してしまったら、ほんの少しだけ情が湧いてしまった。
「こんなとこあったんだ……」
「そう。結構いいとこでしょ?静かだし」
「まあ……」
陽平に案内されたのは、大人の雰囲気をもつ隠れバー的な店。
一軒目に行くというよりは、二軒目三軒目に行くような店だ。
カウンターではなく、ふかふかのソファー席に案内され、落ち着くBGMが流れていた。
「せっかくだから何か飲もうよ。軽くつまめるものも」
「うん」
さすがにすきっ腹で飲む気はしない。
普段から酔わないけど、今日だけは絶対に酔ってはいけないから。