好きになんか、なってやらない
 
「……そっか。よかった」


私の返事を聞いて、ほっとした表情を浮かべた陽平。

やっぱりその笑顔はズルイ。
大好きだったあの時の自分が、どこかで惹きつけられてしまう。


「……私、ちょっとお手洗い行ってくる」
「はいよ」


なんだか自分が、最低な女になりそうな気がして、逃げるように陽平の前から席を立った。




トイレを済ませて、鏡の前に立ちながら携帯を取り出すと、ラインが来ていることに気づいた。


【猫、持って帰ったの?】


送り主は岬さん。
15分くらい前に送られていたもので、一言で済むと思い返信をした。


【はい。デスクにあっても邪魔なだけなんで】


そのまま携帯をしまおうと思ったけど、すぐにそれは既読へと変わる。
もしかして返信来る?
と思い、ちょっとだけ待っていると、案の定次の文章が記された。


【もう家着いた?】
【いえ。今日は知り合いと飲んでます】
【男?】
【そうですね】
【誰?】


即答で返ってくるライン。

誰、と聞かれて、正直に陽平と答えるべきなんだろうか……。
いや、でも岬さんは彼氏でもなんでもない。
いちいち細かく報告しなくちゃいけないわけではない。
 
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