好きになんか、なってやらない
 
「だから……知り合いと飲んでるって言いませんでしたっけ」
「そのあとは?お前、家に帰ったの?」
「え……?」


まるで、何かを知っているような言いぐさだ。

普段の私からすれば、家に帰るのが当たり前に思われるはず。
なのにわざわざこのタイミングで、そんなことを聞いてくる。


「……帰ったに決まってるじゃないですか」


咄嗟に出た言葉は、嘘の言葉だった。

相手は、嘘をつく対象じゃない。
べつに付き合っている人でもないし、好かれている相手でもない。

なのになぜか、陽平の家に泊まったことは言いたくない。


「服。昨日と同じなんですけど」
「……」


嘘をついた私なんてお見通しのように
上から見下ろすように冷ややかな突っ込み。


最悪だ。
どうしてこの人は、私の服装なんていちいち覚えているんだろう。

真央ですら、突っ込んでこなかったのに……。


「べつに私が家に帰っても帰らなくても、岬さんには関係ないことじゃないですかっ」


そう言い切った瞬間だった。


「っ……」


途端に感じる唇の体温。

ギリッと痛むほど掴まれた腕。



気づけば私は、岬さんに唇を奪われていた。
 
< 155 / 301 >

この作品をシェア

pagetop