好きになんか、なってやらない
「だから……知り合いと飲んでるって言いませんでしたっけ」
「そのあとは?お前、家に帰ったの?」
「え……?」
まるで、何かを知っているような言いぐさだ。
普段の私からすれば、家に帰るのが当たり前に思われるはず。
なのにわざわざこのタイミングで、そんなことを聞いてくる。
「……帰ったに決まってるじゃないですか」
咄嗟に出た言葉は、嘘の言葉だった。
相手は、嘘をつく対象じゃない。
べつに付き合っている人でもないし、好かれている相手でもない。
なのになぜか、陽平の家に泊まったことは言いたくない。
「服。昨日と同じなんですけど」
「……」
嘘をついた私なんてお見通しのように
上から見下ろすように冷ややかな突っ込み。
最悪だ。
どうしてこの人は、私の服装なんていちいち覚えているんだろう。
真央ですら、突っ込んでこなかったのに……。
「べつに私が家に帰っても帰らなくても、岬さんには関係ないことじゃないですかっ」
そう言い切った瞬間だった。
「っ……」
途端に感じる唇の体温。
ギリッと痛むほど掴まれた腕。
気づけば私は、岬さんに唇を奪われていた。