好きになんか、なってやらない
「お前をからかうのとか、結構楽しくてずっと突っかかってたけど、なんか今のお前、すげぇつまんねぇや。
イライラするだけだし、他の女とたいして変わんないし。
だからもう解放してやるよ」
嘲笑いが含まれた、最低な発言。
冷ややかな瞳も、今までとは全く違う。
「悪かったな。こんな男に付きまとわれて。
もう安心しろ。
じゃあな。伊藤さん」
それだけ言うと、岬さんは一人会議室から出て行ってしまった。
途端に訪れる静寂。
岬さんが歩く足音も消え、ここだけが異空間のように静かに感じた。
これでよかった。
これで安心した。
もうあんな男に、うざいくらいに付きまとわられることなんかなくなるんだから……。
ずっとずっと大嫌いだった。
ずっとずっと苦手だった。
イライラするし、
信用できないし、
勝手にキスしたりするし……。
解放されて嬉しい。
なのに……
「………っく…」
どうしてこんなにも、胸が痛いんだろう……。