好きになんか、なってやらない
 
だけど彼の姿を目の前にしても、駆け寄ることなんて出来なかった。

金曜の夜で、人が多くいる中、向こうが私の存在に気づくことはない。


「じゃあ、あたしのマンションまで送ってくれます?」
「そうだなー。そうしたら、どうしてくれる?」
「もおー、凌太さんのえっちー」


二人の会話を聞いて、イライラが募っていく。

最悪だ。
このやりとりを目の前でされるなんて……。


やっぱり彼は、どうしようもないほどの女たらしなんだ。
これ以上二人の姿を見ていたくなくて、少し回り道をして向こうの改札へ行こうとした。

だけど、



「こんなとこ、玲奈に見つかったら困るんじゃないんですか?」



急に自分の名前を出されて、その足が止まってしまった。


「玲奈?なんで?」
「なんでって……。凌太さん、ずっと玲奈のことが好きで追いかけてたじゃないですか」
「……そうだね」


真央以外、真実は知らない。

会社の人全員は、岬さんが私を本気で好きで追いかけていたと思っているから……

だから当然、ここ最近の私たちを見て、疑問に思う人たちも少なくはなかった。
 
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