好きになんか、なってやらない
「………え…?」
これは、錯覚だろうか……。
今目の前にいる人は誰?
オートロックの扉を開けて、エレベーターに乗り込み6階へと降りる。
自分の部屋の前。
そこにたたずむ一つの影。
ショックのあまり、自分の目がイカれたんだと確信した。
けど、私の存在に気づくと、その影は……
「おせーよ」
眉を少ししかめて、半笑いで私を出迎えた。
「み、岬さん……?」
「何、幽霊見てるみたいな顔してんの?」
「え。いやっ……だって……」
それはそうだ。
だって私は、確かに駅で彼から逃げるように電車に乗り込み、先に帰ったはずだった。
そんな彼が、私よりも先に、この家の前にいるなんて……
「タクシー乗ってきた。玲奈より先に着くのは予想外だったけど。
オートロックのエントランスは、ちょうどマンションに入ってく人がいたから、しれっとした顔で一緒に入っただけ」
当たり前のように言ってるけど、完全に不審者と同じだし。
ってか……
そんなことどうでもいいんですけど。