好きになんか、なってやらない
 
「お前、自分だけ言いたいこと言って勝手に帰んなよな」
「な、だってそれはっ……」


その瞬間、チンという音とともにエレベーターが着く音。


「こんばんは……」
「こんばんは」


同じ階の人が帰ってきたらしく、挨拶をしつつも、扉の前でいがみあっている私たちを、明らかに不思議そうに見ていた。


「……とりあえず入ってください。
 ここじゃ、近所の人に迷惑なんで」

「ん」


部屋に上げるのは、物凄く不本意な気がしたけど、この際仕方がない。

私はなぜか、ついさっき失恋したと思われる相手を、自分の部屋へと上げた。



「………え…?」



だけど扉を開けて靴を脱いだ瞬間、包み込まれる背中。

一瞬にして、意味が分からなくなる。

気づけば私は、岬さんに後ろから抱きしめられていた。


「なあ、本当?さっき言った言葉」
「さ…さっきってなんですか……」
「俺を好きだってこと」
「……」


まさかの聞き返し。

一世一代の告白を、再度聞かないでほしい。
 
< 171 / 301 >

この作品をシェア

pagetop