好きになんか、なってやらない
 
「確かにあの日……。
 私が陽平の家に泊まったのは事実です。

 飲みに誘われて断ったけど、あの日が陽平の誕生日だって思い出して……少しだけ付き合おうって思ったんです。
 だけどなぜかあの日に限って、私、カクテル数杯で酔って意識をなくしちゃったみたいで……。

 それで陽平は自分の家に私を連れてったらしいです。
 でもまさかその時、陽平が私の携帯に出ていたなんて知らなくて……」


「……すっげーやばいにおい感じるんだけど」


「え?ひゃっ……!!」


あの日の状況説明をし終わった瞬間、私の体はぐらりと揺れ、
気づけばすぐそこにあった自分のベッドの上へと押し倒されていた。


反動でつぶってしまった目を開けた先には、苛立ちを見せた岬さんが覆いかぶさっている。


「な、にするんですかっ……」
「お前、バカなの?」
「なんでっ……」
「男を信用できないとか言いながら、自分の行動が悪いんだろ」
「なっ……」


いきなりの悪口。

カチンときて、思いきり反論しようと思ったけど
そのままふわりと包み込むように抱きしめられていた。



「本当に、何もされてないんだな?」

「え?……は、い……」



多分、あの日の感覚からすると、何かされてはいないと思う。

服もちゃんと着ていたし、体に異変を感じることはなかったし。


「よかった……」


耳元からかすれてつぶやかれる岬さんの声は、本当に安堵から漏れる声色だった。
 
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