好きになんか、なってやらない
3章 靡かない
 
「うわ……」
「見事な一声」


帰りのホーム。
いつもの定位置へと向かうと、そこには社内で一番顔を合わせたくない男が……。


「……お疲れ様です」
「っておいっ。どこ行くんだよ」
「私、一番前の車両に乗りたいんで」
「じゃあ、俺もそうしよ」
「……」


私の小さな抵抗は、無駄なあがき。

発言してしまったからには仕方なく、一番前の車両へと向かう私の後ろには、岬さんがついてきた。


「っていうか、なんでいるんですか?結構前に帰ったと思ったんですけど」
「ちょっとコンビニで雑誌読んでた。ってか、俺のこと見てたんだな」
「自惚れないでください。あなたが帰ると、周りの女子が必要以上に声をかけるので、すぐに分かるんです」
「それを見て、玲奈はヤキモチを妬くと」
「だから自惚れんな。あ…すみません」
「くくっ……」


ついつい、苛立って言葉づかいを悪くしてしまい、慌てて謝ると、それを見て岬さんは面白そうに笑っていた。

あーなんだかこのまま、敬語を捨ててしまいたいくらい。


「……岬さんは…」
「凌太」
「はい?」
「いい加減、俺のこと、名前で呼んでよ」
「なんでですか」
「玲奈には名前で呼ばれたいから」
「……」


こっちは、玲奈と呼ばれることは不愉快だ。

そんな思いを込めて、しれっと言い切る岬さんを呆れた表情で見上げた。
 
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