好きになんか、なってやらない
 
「だから再会したとき、ちょっと面白いこと思いついてさ。もう一度俺に惚れさせて、ボロボロに振ってやろうかなーって。
 あー、やっぱこの前、酒に睡眠薬いれたとき、無理やりヤッておけばよかった!」

「お前、それ犯罪だろ」


ありえない言葉を、面白そうにケラケラ笑いながら話す三人。


お酒に睡眠薬……。
ああ、そうか……。
だから私はあの時寝ちゃって……。


ワナワナと唇が震え、ぎゅっとグラスを握った。

幸いにも、真央と柿本さんは二人の会話に夢中になって、私の異変には気付いていない。
だけど凌太だけは、怒りに満ちた目で壁の向こう側を睨んでいる。


「ったく、冴えない女のくせに高飛車とかいって、どんだけだよ!
 あいつ絶対に結婚とかできねぇぜ」


悔しい……
腹立つ……。

苛立ちで腹が煮え返りそうだ……。


けど……


なんでだろう。
何も言い返すことが出来ないほど、体が震えている。


目の前の水をぶっかけに行こうと思った。
けど、立ち上がることすら出来なかった。


私は結局、強気に見せた、弱い女なのだ。



「………真央ちゃん」

「はい?」



突然、凌太が口を開き、真央へと視線を向けた。



「化粧ポーチとか持ってる?
 悪いんだけど、ちょっと貸してくれない?」



その言葉に、誰もが首をかしげた。
 
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