好きになんか、なってやらない
「ん?ちゅーされたいの?」
「あ、電車来ましたね」
「って、スルーかよ!」
本当に、どうしてこんな人が世の中モテるんだろう……。
顔は確かにいいかもしれないけど、中身はただのバカにしか思えない。
隣でわめく岬さんを無視し、帰宅ラッシュとなる電車へと乗り込んだ。
一番前の車両だけど、8時を過ぎた今は、一番の混み時。
朝もそうだけど、毎回この通勤時間が憂欝。
「玲奈、こっち」
「え?」
「しばらくこっちのドアは開かないから」
「……すみません」
一番最後に乗り込んだということもあって、ドア付近だったということもあり、岬さんは私をドアもとへ寄せると、それを覆うようにして立ちふさがった。
「平気?」
「……はい」
必然と至近距離で上から見下ろす状況。
目の前には岬さんの胸元があって、隙間から見える鎖骨に不覚にもドキッとしてしまった。
「でもこの格好、ヤバイね」
「……」
「嘘だって!んな、睨むな」
上からこっそりと耳打ちされた言葉に、キッと睨みあげて威嚇した。
指一本でも触れたら、痴漢扱いをしてやるという意味で。
「ほんと、ガード固すぎ」
「なら、緩い女の子のもとへ行ってください」
「それじゃあ、意味がないの分かってるでしょ」
「……」
分かってる……。
けど、やっぱりこんな自分に固執する意味が分からない。