好きになんか、なってやらない
 





「はぁっ……」


店から出て、どれくらいの距離を歩いたのか分からない。

ただ適当に、走ることもなく足早で歩いた。
気づけば、人通りの少ない路地まで来ていて、ようやく足が止まった。

それと同時に、すぐ後ろから聞こえていた足音も、一緒に止まる。


「泣くんなら、こっち来いよ」

「泣かないよ。べつに……泣きたくなんかない」


後ろから聞こえてきた声に、いつもの調子で返す。

でもこれは本音。
泣きたいわけでも、涙を堪えているわけでもない。

湧いてきているのは、


「ただの怒りと悔しさだから」


自分にたいしての、軽率さへの怒り。



かつて大好きだった人。
その大好きだった人に裏切られ、絶対にもう信用しないと心に決めていたのに
私はまんまとまた、騙されていた。


彼の優しさは本心だと……
彼の想いは本音だと……


けど……



「ほんと……バカだよね」



私はまた、
勝手に一人相撲していただけだった。
 
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