好きになんか、なってやらない
 
「一発、蹴りでも入れてくればよかった」
「今でも間に合うんじゃね?」
「戻って蹴るなんて、カッコ悪すぎでしょ」


私の言葉に、コツコツと歩みを進めながら相槌を打つ凌太。

すぐ隣に並び、私の顔を覗き込んだ。


「泣いたら化粧崩れんぞ」
「だから泣かないって」


せっかく凌太にしてもらった綺麗な化粧。

それを崩すなんて御免だ。


「そんなに私、泣きそうな顔してる?」
「全然」
「からかわないでよ」


私の言葉に、凌太は面白そうに笑うだけ。

けど、ぐっと私の頭を引き寄せると、コツンと自分の胸へと押し付けた。


「すげぇ、カッコよかった」
「……」


頭の上から聞こえた、褒め言葉。
正直、どう反応したらいいのか分からない。


「やっぱ俺が惚れただけの女だなって」
「……何様?」
「俺様」
「バカじゃないの」


素直に受け止められなくて、今もなお、憎まれ口を叩く。

それでも凌太は笑っていて、ポンポンと背中を叩くだけ。
 
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