好きになんか、なってやらない
 
私たちのやりとりを聞いて、周りから聞こえるクスクスと笑う声。

その雰囲気にも、いい加減慣れていた。


「俺、まだ全部言ってないんだけど……」
「全部聞く必要もないと思ったので」
「うわっ。玲奈、超冷たい」


さっき注意したばかりだというのに、なおも人を「玲奈」となれなれしく呼ぶ男。


「今日も振られたな。凌太」
「ひどいっすよねー。俺はこんなにも玲奈に求愛してるって言うのに」
「お前をここまでスッパリ切る女も、伊藤さんくらいだろ」
「ですよね!」


自信満々にそんなことを言ってのけるこいつ……岬凌太(みさき りょうた)。28歳。
私よりも2つ年上で、一応先輩社員に当たる。


こんなにも自信満々に言っても、非難する人が誰もいないのは、振り返って彼の顔を見れば分かることで……。


「玲奈も一回くらい、凌太くんと食事してあげればいいのに……」
「そうだよー。あたしが変わってもらいたいくらい」


誰もが認める、「イケメン」と呼ばれるのにふさわしい顔立ちをしているからだ。


整った顔に、八頭身はある長身。
髪も地毛から茶髪らしく、綺麗な色合いなのにダメージ一切なし。
低い声の中の甘いボイス。

一度は口説かれてみたい、と人は言うが……



「やめて。こっちは災難」



私にとって、彼はただの疫病神でしかならない。
 
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