好きになんか、なってやらない
電車の動く音だけが、ガタンゴトンと響いて、この距離が妙に落ち着かなかった。
岬さんのことは、なんとも思っていない。
だけど何度も自分を好きだと言ってくる相手を、何も意識しないほど、ロボット化された心ではない。
「玲奈ってさ」
「……なんですか」
「今まで男と付き合ったこととかあるの?」
「……ありますよ」
突然の質問。
一瞬心が動揺したけど、それを悟られないよう微動だにしないまま答えた。
何人かと付き合ったことはある。
けど、どれも長続きはしない。
それは私が、つまらない人間であるうえに、相手も真面目で面白味のない人を選んでいたから……。
だから付き合っている意味が分からず、お互いに了承のうえ、自然に別れることがほとんどだった。
最初の人以外……。
「なんだ。俺が初めてじゃないんだ」
「初めても何も、岬さんと付き合うつもりはありません」
「ひでー」
岬さんとだけは付き合いたくない。
岬さんは、彼に少し似ているから……。
「じゃあ、私はここで降りるので」
「はいよ。お疲れ」
「お疲れ様でした」
ようやく着いた駅。
最後まで動揺を悟られないよう、ぺこりと頭を下げると、一人電車を降りた。