好きになんか、なってやらない
「これか。真央が言ってたのは」
「……何が?」
止めた先に映るコマーシャルの女の子。
きっとこの彼女が、美空ちゃんという子に違いない。
その子が握る手には、この前もらったばかりの口紅が握られていた。
《彼を虜にするルージュ。この唇をあなただけに……》
テレビから流れるキャッチコピー。
画面いっぱいには、唇を綺麗に輝かせた美空ちゃんが映っている。
「真央にもらったの。この口紅」
「……そっか」
「似合わない」とか、「つけてみて」とか、何かしら反応が返ってくると思ったのに、想定外の凌太の反応。
心ここにあらず…のように、空返事だった。
「どうしたの?」
「え?何が?」
「間抜けな顔してるから」
「お前、俺の顔に向かって、間抜けはねぇだろ」
「ナルシスト」
「事実だから」
「……」
ここまで自信家なところ、少しは分けてもらいたい。
だけど気づけば、さっきのような気の抜けた凌太はもういなく、またいつもの調子を取り戻していた。
「明日つけてくの?」
「……さあ」
「つけてよ。メイク一式も持ってきたし、明日は思いきり飾ってやるから」
耳元で囁かれた台詞に、ドキンとして思わず立ち上がった。
「しゃ、シャワー浴びてくる」
とてもじゃないけど、平常心を保てない。