好きになんか、なってやらない
 





「凌太ー。飯行こうぜ」
「おう」


昼休み、フロアの遠くから聞こえた声。

女子の大半が、その声を聞くと一度顔を上げる。


「今日はどこに行くのかね」
「さあ」
「あ、女性陣もいっぱい立ち上がったよ」
「……みんな暇だよね」
「アンタ……」


隣の真央に耳打ちをされながら、冷静にパソコンに向かう手。

その横を、岬さんと、声をかけた柿本さんが並び、少し遅れて女性人たちが追うようについていった。


柿本さんは、岬さんと同様、この社内で注目されている一人。
岬さんより大人の雰囲気をもち、だけど同じように女子にたいする人当たりがいい。

つまり私の苦手とするタイプ。


岬さんと柿本さんは、私が入社する前から仲が良く、その容姿をもつ二人には、いつも女性社員がついてまわっていた。
だからこうやってお昼休みとして席を立つと、偶然を装ったり、一緒にランチをしたいなどという理由で、みんな同時にフロアを出るのだ。


「とられちゃうよ?凌太さん」
「どうぞどうぞ」
「あー、ほんともったいない」
「で、うちらはどこに行く?」


たとえどんな言われようと、なびいたりなんかしない。

隣でぶつぶつ真央が文句を言っているけど、それを無視して、自分たちは自分たちで別の店へランチへ向かった。
 
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