好きになんか、なってやらない
18章 過去の影
「そーいえばさ」
「こら、動くな」
次の日の朝……といっても、もうお昼近く。
同じベッドで起きた私と凌太は、テーブルの前で向かい合って座っている。
しゃべりかけようと顔を傾けたら、凌太に注意された。
その理由とは、
「動いたら、変な位置にアイライン入れるぞ」
「そしたら全部落とす」
「てめっ……人がせっかく手の込んだことしてやってんのに……」
凌太が私の顔に、メイクをしているからだ。
誕生日を迎えた今日。
なにやら、デートをすると一日のスケジュールは勝手に抑えられていた。
まあ、前日から泊まっていたから、それは分かってはいたけど。
そして昨日なんとなくつぶやいていたことは実現されていて、凌太はせっせと人にメイクを施している。
「よし。あとは……これだよな」
「……うん」
最後に手にとったのは、真央がくれた口紅。
淡いオレンジ色の、褐色のいい明るい色だ。
「真央ちゃん、玲奈のことよく分かってんな。
可愛すぎるピンクとか選ばないとことか」
「そうなの?」
「ああ。玲奈の場合、顔立ちがはっきりしてるから、可愛い系のメイクより綺麗目のほうが合ってる。
濃い赤でもいいんじゃね」
「そう……」
そんなこと言われても、さっぱり分からない。
なんたって今まで、ちゃんとした化粧品を持ったことがないから。