好きになんか、なってやらない
「そういえば、さっき何か言いかけてなかった?」
自分の顔をまじまじと見つめている中、メイク道具をしまいながら凌太が訪ねてきた。
さっき……さっき………あ、そうだ。
「なんで、凌太はメイクの仕事やめたの?」
つい気になった疑問。
今だって、こんなにも簡単に人の顔を変えてしまった。
キラキラとした世界。
手に職を持つとはこのこと。
やりごたえもありそうなのに、なぜうちの会社みたいな、ただの商社に来たのか……。
「………べつに。飽きたから、かな」
返ってきた言葉に、少し異変を感じた。
明らかに、いつもと違ったテンション。
茶化すような声色もまるで消え、淡々とした答えだった。
「飽きたって……どれくらいしてたの?」
「専門出て業界入ったから……4年くらい」
「へー。業界ってすごいね。芸能人相手にしてたの?」
「まーな。といっても、まだまだ無名のモデルがほとんどだったけど」
「そうなんだ」
テンションが下がったのは気のせいだろうか……。
質問をすれば、それなりの答えはちゃんと返ってきて、気になったことを次々と聞いていた。
「モデルとか好きそうだよねー。
手、出したことあるんじゃないの?」
ほんの、いつものからかい言葉のつもりだった。
「うるせーよ」とか「まーな」とか、そんな簡単な答えが返ってくるものかと思ってた。
けど、その言葉を発した途端、
バン!
という音が部屋に響く。