好きになんか、なってやらない
 
何事かと思って顔を上げると、それはただ、凌太がメイクの箱の蓋をしめただけの音で……



「くだらねー話はおしまい。
 時間なくなるし、外出るか」



にっこりと微笑んで私を促す凌太に、なぜか何も言い返せなかった。


笑っているのに、有無を言わさない顔。
それ以上何も聞いてはいけないと、遠回しに向けられた笑顔。


人の過去は気になる。
ましては好きな人のものだったら。

だけど人には詮索されたくないことだってある。


まさに今、私は踏み込んではいけない区域に踏み込もうとしたようで……



「……うん」



何も言い返すことなく、
借りていた鏡を凌太へと返した。


「玲奈、行きたいとことかある?」
「とくには」
「言うと思った……。
 じゃあ、今日は買い物な。
 玲奈の化粧品、一式買い揃えよう」
「え……」


その会話をするときには、すでに凌太はいつもの調子に戻っていて
私ももう、さっきの話はそれ以上踏み込むのはやめようと思った。
 
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