好きになんか、なってやらない
19章 元カノ
「どうしたの?」
夜、仕事から帰って、金曜のひと時のチョコを堪能していると、ふいにインターフォンが鳴った。
出た先にいたのは、押尾さんと飲みに行くと言っていた凌太。
「べつにー。玲奈に会いたくなって来ちゃった」
「……上がれば」
「はーい」
まるで、男女が正反対の会話。
可愛らしく「来ちゃった」発言をしている凌太をスルーして、さっさと一人でリビングへと戻った。
「珍しいね、凌太が酔ってるなんて」
「介抱してー」
「離れて」
酔っ払いが絡んできた、と言わんばかりに抱き着いてきた凌太を引きはがす。
それでもめげずに凌太は人に抱き着いてきて、仕方なくそのままにしておいた。
「……何かあったの?」
凌太は普段、どんなにお酒を飲んでも酔わない。
私と飲みになんて行ったら、お互いに顔色一つ変えずに次々とグラスを開けてしまう。
だからこんなふうに酔っている凌太を見るのは初めてだった。
「べつに何も?ただ、久々に押尾さんと飲んで盛り上がっただけ」
「ならいいけど」
本当か嘘か分からない。
……いや、多分嘘。
だけどその理由を、私には言いたくないんだと思う。
言ってくれないのは悲しいけど
そこに何か理由があるような気がしたから、無理には聞こうとはしない。
ただ人にもたれかかる凌太の頭を、そっと撫でた。