好きになんか、なってやらない
一人エレベーターに乗り込んで、さっさと帰路につこうと思った。
今日は凌太は外回りからの直帰。
だから多分、もう家に帰っているかもしれない。
そんな日は、下手に会社で呼び止められることもなく、さっさと帰れた。
そのはずだったけど……
「……」
エレベーターを降りて、一人の影に目がいった。
端の壁にもたれかかりながら、帽子を深くかぶった女の人。
すらりと伸びる足が綺麗で、一瞬にしてそれが誰なのか分かってしまった。
思わず立ち止まってしまった足。
それに気づいた彼女。
彼女はつかつかと前へ歩き出すと、私の前に立ちはだかった。
「こんばんは」
「……こんばんは」
帽子を少しだけ上げて顔を見せた彼女は、
予想した通り……美空さんだった。
「……凌太なら、今日は直帰だと思うので、会社にいませんよ」
「いいの。用があるのはあなただから」
「……」
ああ、嫌な予感。
めんどくさいことにならなければいいけど……。
心の中で深いため息を吐きながら
逃げる術を思いつけなくて、仕方なしに美空さんと近くのカフェでお茶をすることになった。