好きになんか、なってやらない
 
川辺さんは、私よりいくつか年上で、営業部の中でも特別目立つような存在ではない。
かといって、地味系でもないので、よくいる普通の男性。

だから苦手でもなければ、すぐ受け入れられるような相手でもない。


「あとどれくらい?」
「これだけなんで……。15分程度で終わるかと……」
「そっか。ってか、もう電車ないよね」
「ですね」


0時30分になれば、きっとどんな近い人でも電車はなくなる。
顔をあげれば、私と川辺さん以外いないことも、今気づいた。


「あ、鍵ですか?私が閉めておくので大丈夫ですよ」
「ん。でもあと15分なら、俺も一緒に残ってようかな」
「え……」


予想外の返し。
残ってるって……なんで?

川辺さんとは、たいして話したことはない。
挨拶をする程度で、一緒に飲みに行ったり、ランチをするような仲でもない。

だから今、こうやって二人でいるだけでも、結構気まずいっていうのに……。


「伊藤さんはどうやって帰るの?タクシー?」
「はい……」
「タクシー代もったいないよね。
 ってか、俺んちなら歩いて行ける距離だから、泊まっていけば?」
「え?」
「だってそれならタダじゃん。電車動いたら帰ればいいし。
 寝ちゃってんなら、その時間までいればいいし」
「いや、でも……」


それ以前に、付き合ってもない人の家に、泊まることがおかしいでしょ。
 
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