好きになんか、なってやらない
「そんなこと言われても……」
「凌太から、あたしのこと聞いてる?」
「……いえ。何も聞いてないです」
あれから、結局美空さんとの過去の話は聞かなかった。
踏み入る気もなかったし、やっぱり聞きたくなんかなかったから。
そうは思っているけど、どことなく気になっているのも事実。
そんな私を察してか、美空さんが続けて口を開いた。
「付き合ってたの。あたしがまだまだ、無名モデルだったとき……。
凌太が担当のメイクさんで、あたしがモデルの一人。
売れない自分に悩んでいることを、なんとなくメイクしながら凌太に相談とかしてて……気づけば一番の理解者になってた。
凌太の悩みも聞いてたし、自然と惹かれあって付き合うようになったの」
ズキン…と胸が痛みだした。
やっぱり、好きな人の過去の恋愛話は聞くものじゃない。
だけどストップをかけられない自分はなんなんだろう……。
「だけどだんだん、あたしの仕事の成果が出てきて……アムアムとの専属契約が決まって……。人気も1,2を争うようになった。
その時事務所に言われたの。
今のあたしにスキャンダルは爆弾。付き合ってる人がいるんだったら、すぐ別れろって」
そう言った美空さんは、今にも泣きだしそうな顔をしていた。
演技とか、嘘とかではない。
純粋に悲しんでいる顔。
悲しみがこっちまで伝わってくるようだ。