好きになんか、なってやらない
 





「どうした?」


自分の家に帰るつもりだった。
平気なふりして、いつもの自分でいるつもりだった。

だけど自然と足が向かった先は
私の駅よりも少し奥の駅で……


「……なんとなく」
「どーぞ」


突然家に来た私を驚きながらも、凌太は抵抗なしに迎え入れてくれた。


「玲奈から来るなんて珍しいな。何かあった?」
「ううん……。べつに家に帰っても暇だったから」
「ふーん」


家に帰って、することがないなんていつものこと。
むしろその一人の時間が好きだったはずなのに……
今だけは、一人でいるのが耐えられなかった。


言葉のつけられない不安が、私の胸の中で渦を巻いている。


「飲む?」
「……うん」


定位置となったソファーに腰を下ろすと、冷蔵庫の前から缶ビールを向けられる。
飲みたい気分ではなかったけど、逆に飲んでしまったほうがスッキリするかもと思い、凌太から受け取った。
 
< 254 / 301 >

この作品をシェア

pagetop